20. 近親交配と遺伝的浮動
https://gyazo.com/2f0bba5c1facdf9dff17f9854cf9adff
任意交配からのずれは普通は次の二つの理由のうちの一方、または両方によって起こる 配偶者が集団から任意に選ばれた2人より、近縁関係にある場合 また、夫婦の間には髪の毛の色、身長、IQの上で相関がある 時には二つの効果が混在していることがある
配偶者の間で表現型が似ていることは、両者が近縁関係にあることによる場合
ただし、近縁の度合いは非常に低いかもしれない
例えば、アメリカにおける金髪同士の選択結婚は、北ヨーロッパからの人が同一の地域社会に住んでおり、そのために結婚する結果かもしれない
近親交配
もし、ある個体が近親交配によって生じたものであれば、その両親には類縁があり、すなわち血縁関係にある その場合には両者は一つまたはそれ以上の共通な祖先をもっているはず
したがって、近縁関係にある個体は一つまたはそれ以上の祖先に由来した同一遺伝子を共有することになる
両親が近縁関係にある子どもは両親の各々から同一の遺伝子を受け取る機会がある 一つの個体の二つの相同遺伝子(またはその個体をつくった二つの配偶子の遺伝子)が共通の祖先の同一遺伝子に由来する確率 その結果、近親結婚により生まれた子どもは両親が無関係の場合に比べ特定の遺伝子座についてもすべての遺伝子座を同時に考えてもホモ接合となる確率が大きい 説明のために近親交配の最も極端な形である自家受精を考える ハーディ-ワインベルグの比率にある集団から出発したときの世代ごとの効果を示す
table:表20.1 自家受精を行った場合の各世代における3種の遺伝子型の頻度
世代 AA Aa aa もとのヘテロ接合体の頻度からみた割合
0 p² 2pq q² 1
1 p²+pq/2 pq q²+pq/2 1/2
2 p²+3pq/4 pq/2 q²+3pq/4 1/4
3 p²+7pq/8 pq/4 q²+7pq/8 1/8
∞ p 0 q 0
もし第0世代のすべての個体が自家受精されると、AAおよびaaの子は両親と同じである
ヘテロ接合の親は平均して1/4AA、1/2Aa、1/4aaの子どもを生ずる
したがって、ヘテロ接合体の割合は前の世代の半分に減少し残りの半分はホモ接合の二つの型に均等に分けられる
遺伝子頻度は変化せずどの世代でもホモ接合体AAの頻度にヘテロ接合体の頻度の半分を加えると$ pとなることに注意
自家受精はヘテロ接合の頻度を毎代半減させる
他のそれほど極端でない近親交配の場合でも、それほど極端ではないが似たような効果があると予想される
他の近親交配の様式、例えば同胞交配を続けた場合についても自家受精について行ったようなやり方を用いて結果を計算することができるが、ずっと面倒 近親交配が表現型に及ぼす影響は、メンデル以前の時代から知られていた
近親交配によってできた系統内では遺伝的に均一になり勢いが弱くなったり、妊性が減じたりするという性質 しかし、あらゆる生物においてホモ接合の系統は元気が悪く、生存力や妊性は低くなるのが普通
近親交配によって、それ以前には相手の優性遺伝子によって隠されたていた有害な劣性遺伝子が表現されるようになるから もし実験家が、均一だが生活力も高いハツカネズミの系統を望む場合には、二つの近交系を交配すればよい
これはトウモロコシや他の作物において均一で収量の高い系統を得る標準的な方法
親縁係数および近交係数
これは二つの個体の各々から任意に1個ずつ取り出した二つの相同遺伝子が共通の祖先に由来する確率として定義される
二つの遺伝子が共通の祖先から由来するというのは、両者が共通祖先の同一遺伝子から由来したか、一方が他方の子孫であることを意味する
一つの遺伝子座を考え、接合体の時期における遺伝子を調べるものと仮定する
2個体JとKの間の親縁係数を$ F_{JK}と表すことにする
もしJとKが親と子であれば$ F_{JK}=1/4
遺伝学者にとってこれは親縁関係をはかる自然なやり方
2個体が近縁であればあるほど共有する遺伝子の割合は大きくなる
共通な遺伝子というのは共通の祖先から由来するものなので、2個体から共通祖先に由来する遺伝子を取り出す確率は両者の近縁関係をはかる自然な尺度
したがって、もしJとKがIの両親であれば$ F_I=F_{JK}
これもまた自然
ある個体の近交係数は二つの対立遺伝子が共通祖先に由来する確率であるが、これは両親のそれぞれから一つずつ二つの遺伝子を任意に取り出したとき、この二つの遺伝子が同じである確率で、それは子どものできてくる過程と同じだから
同じ文字を近交係数と親縁係数の両方に用いることは理にかなっている
下付き文字の数で表す
はっきりしているときは下付きは省略される
Fと各種遺伝子型の頻度との関係
配偶子プールを用いる方法に従う
対立遺伝子を一つ、この遺伝子プールから引き出したとき、2回目にも1回目と同じ対立遺伝子を引き出す確率は$ F
したがって、2回目の対立遺伝子が最初のものと共通祖先をもたない確率は$ 1-F
しかし、この二つは同じ対立遺伝子の状態にあるかもしれない
すなわち両方ともAだったりaだったりするかもしれない
二つの対立遺伝子Aとaを頻度pとqでもつ一つの遺伝子座を考える
一つの接合体がもつ二つの対立遺伝子が共通祖先に由来しない確率は$ 1-F
この場合遺伝子型AA, Aa, aaの確率は$ p^2, 2pq, q^2
二つの対立遺伝子が共通祖先に由来する確率は$ F
両者が共にAである確率は$ p
同様に両者が共に$ aである確率は$ q
総合すると
AA: $ p^2(1-F)+pF
Aa: $ 2pq(1-F)
aa: $ q^2(1-F)+qF
$ F=1のときは集団が完全にホモ接合体ばかりからなり、それらの頻度は対立遺伝子自体の頻度と同じであることに注意
これらの式は簡単に複対立遺伝子の場合に拡張できる
いま$ p_iと$ p_jによって対立遺伝子$ A_iと$ A_jの頻度を表せば、接合体頻度は次のようになる
ホモ接合体 $ A_iA_i $ p_i^2(1-F)+p_iF
ヘテロ接合体 $ A_iA_j $ 2p_ip_j(1-F)
任意の1種類のヘテロ接合体の頻度が$ 1-Fに比例するのでヘテロ接合体の全体の頻度もまた$ 1-Fに比例する
記号で表すと特定の$ Fの値に対するヘテロ接合体の頻度$ Het_F=Het_0(1-F)
この式はもう一つの$ Fの意味を表している
$ Fは遺伝子頻度が同じだとして、任意交配集団に比べヘテロ接合体の頻度がどれだけの割合だけ減少するかを表す
系図からFを計算すること
一つの系図に大して$ Fを簡単に計算できる方式がある
系図を書くと便利
https://gyazo.com/206dafc13e8f0d044e9de9b9d93f8827
この場合、Iの両親のJとKは半同胞
われわれが求めているのは、配偶子jとkが同祖対立遺伝子をもつ確率で、これはJとKの親縁係数$ F_{JK}
これはまたIの近交係数$ F_I
jとkが同一の対立遺伝子をもつのは、aとbとがj, kと等しく、お互いに同一の場合であるのに注意
aとbとを考えるために、祖先Aの中にある二つの遺伝子をGとG'で表すことにする
二つの配偶子aとbはGとG、G'とG'、GとG'、G'とGをそれぞれ1/4の確率で含む
ただし祖先Aが近親婚の結果だと二つの遺伝子GとG'はそれ以前の祖先から由来し、そのため同一かもしれない
この確率は定義により$ F_A
したがって、aとbが同一の対立遺伝子をもつ確率は$ (1/2)+(1/2)Fすなわち$ (1/2)(1+F)
最後にbとkが同一の対立遺伝子をもつ1/2
jとa、aとb、bとkがそれぞれ同一である確率は独立であることに注意
これらの事象はお互いに影響を与えない
これらすべてを考慮するとj, a, bおよびkがすべて同一の対立遺伝子をもつ確率は
$ F_I=F_{JK}=(1/2)\times(1/2)(1+F_A)\times(1/2)=(1/2)^3(1+F_A)
上付きの指数3はJから祖先を通りKに戻る経路にある個体、すなわちJ, A, Kの数
もし仮にその経路に$ n個体が存在するとしたら、$ nとなるはず
もし、共通の祖先が1個より多かったり、または同一の祖先を通る一つより多い経路があれば、すべての経路についての値を加算する
加算する理由は、それぞれの経路に由来する同祖確率を知りたいから
各事象が相互排除的であれば、どれかによる確率は、それぞれの確率の和
もしjとkが一つの特定の経路から由来した同一の遺伝子を持つとすれば、両者は別の経路から由来した同一遺伝子を持つことはありえないから
したがって、任意の系図に対する一般法則は次の式で表される
$ F_I=F_{JK}=\Sigma[(1/2)^n(1+F_A)]
ここでギリシャ文字Σはすべての可能な経路について加えることを意味し、nはJとKは数えるがIは数えないようにした場合の各々の経路における個体数
$ F_Aは共通祖先Aの近交係数
各々の経路はJから出発し共通祖先を通りKに帰る
進む方向はその共通祖先のところで1回変わるだけ
すなわち、矢印に反して共通祖先の方向に進み、共通祖先のところで初めて向きを変え、矢印にそって戻る
同一個体を2回通ることは許されない
この規則は図20.2に示してあり、この図にはたいていの複雑な場合が含まれている
https://gyazo.com/e7e4555b193f39becf135a94ef3ef4fd
AはJとKの共通の祖先であり、Aはまた近親交配によって生じたものであることに注意
したがって、まず$ F_Aを計算する
$ F_A=(1/2)^3+(1/2)^3=1/4
DEG、DHG
Aの近交係数が1/4であることを求めた後で、Iの近交係数の計算に進む
$ F_I=(1/2)^3+(1/2)^3+(1/2)^5(1+F_A)+(1/2)^5(1+F_A)=21/64
JCK、JBK、JCABK、JBACK
JとKは近親婚によって生じたものであるが、このことはそれぞれの経路を計算するにあたっては考慮しないことに注意
この経路の頂点にある祖先Aの近親婚だけが計算に入っくる
個体KがCから受け取った遺伝子を子に伝える確率は1/2で、これはBから受け取った遺伝子と同じであってもなくても無関係
もしCおよびBが近親婚によって生じたものであれば、このことは経路JCKおよびJBKを扱うのに考慮することになるはず
上に述べた計算方法は常染色体遺伝子を扱うためのもの 伴性遺伝子の場合、Y連鎖遺伝子やX連鎖遺伝子に対してて近交係数など明らかに意味がない この場合両方とも半接合の状態だから
しかし、雌ではX連鎖遺伝子座に対して近交係数を求めることができる
X連鎖遺伝子を扱うための規則
経路にあるすべての雄を無視すること
ある雄個体からその娘に伝えられたX染色体はこの雄個体が母親から受け取ったものと同一で、確率事象は含まれず、したがって、経路にある各々の雄に対しては1/2ではなく確率1を与える
雄が2代続いている経路はすべて無視すること
雄が2代つながれば経路が断ち切られるから
二つの例
この頻度から遺伝子頻度$ qはこの値の平方根で、すなわち1/100と計算できる
これらの値は近縁関係にない両親から生まれた子どもについてのもの
もし、両親がいとこだとすると、この子どもがPKUとなる危険率
https://gyazo.com/14ac66adffba57b6443258fb5bb72ac4
近交係数を求める計算法によると、子どもの近交係数、すなわち両親の親縁係数は1/16
PKU遺伝子の頻度は1/100
これらの値を式に代入すると、
$ 危険率=(1/100)^2(15/16)+(1/100)(1/16)=115/160000\simeq7/10000
したがって、この危険率は両親が近縁関係にない場合の7倍にもなる
広島と長崎では1950年頃においては出生から8歳までの死亡率は両親が近縁でなければ$ 0.05だが、もし両親がいとこであれば$ 0.104
両者の差は$ 0.054
いとこ結婚によって生まれた子どもではヘテロ接合遺伝子座の$ 1/16がホモ接合になる
しかし、ホモ接合となった遺伝子の半分は劣性遺伝子ではなく優性対立遺伝子
したがって、劣性遺伝子の1/32がホモ接合となる
これらの値から集団の平均個体は$ 0.054\times32、すなわち1.7個の劣性致死遺伝子をもつといえる
ただし、この方法では1個の致死遺伝子と2個の半致死遺伝子、またはその他の同等な効果をもつ遺伝子との区別ができないので、1.7個の致死相当量(kethal equivalent)の遺伝子をもつといった方がよい これらの値は現在では、両親が近縁の場合も、他人の場合も、共にもっと低くなっている
医学の進歩や生活環境の改善によって、以前には致死だった遺伝子は、もはや致死ではなくなった
均一性と多収穫性を得るための近交系の間の交配
近親交配はホモ接合の割合を増すから、以前はよい優性遺伝子によってヘテロの形で隠されていた有害遺伝子を表面に表す
普通にはどのように厳しく淘汰しても、劣性の有害遺伝子をすべて除き去ることはできない
近親交配の結果ほとんど必然的に生活力や収量や生存力が減る
同時に、近親交配により系統内の均一性が増す
近親交配によって、穂形、糖分含量、色、耐病性などについて望みの性質をもったトウモロコシの系統をつくることができる そうしておいて二つの近交系を掛け合わせ、ヘテロ接合によって起こる収量増加をはかると同時に、植物が遺伝的に同一なことからくる均一性も得られる
この場合一つの問題は、種子の値段が高くなること
まくためのトウモロコシの種子を近交系の植物からとらなくてはならないので、収量が低い
近交系AのとBを掛け合わせて雑種ABをつくり、CとDを掛けてCDをつくり、そして2種類の雑種を掛け合わす
こうしてつくられた4系雑種は単後輩の場合と同じような高い収量を示す やや均一性を欠くが、商業上は差し支えない
最近になって、以前よりも収量の高い近交型が開発されたので、商業用トウモロコシはますます単交配を用いるようになり、その結果均一異性が増してきた
雑種トウモロコシの種子は毎年購入しなければならない
もし農家が自分でとった種子を保存しておいても、それは部分的に近交系になるから
こうした保存種子を用いた時、収量が減少すれば、それは近親交配理論の検定になる
table: 表20.2 2系、3系、および4系交配、およびこれらから自然のまま受粉させて得られた子孫のトウモロコシ収量(ブッシェル/エーカー)を理論的な期待値と共に示す
雑種の親となった近交系(F=1) 雑種(F=0) 雑種を自然のまま受粉させてとった種子 減少率(%) 自然受粉した後のF
単交配 23.7 62.8 44.2 47.6 0.50
3系交配 23.8 64.2 49.3 36.8 0.375
4系交配 25.0 64.1 54.0 25.8 0.25
収量の現象は近交係数から予測されるのとほとんど全く同じであることに注意せよ
このことは、トウモロコシの収量とFとがほとんど直線的な関係にあることを示している
したがって、複雑な遺伝子相互作用が重要な役割を果たしている証拠はない
小集団における偶然的な遺伝子頻度の不動
大きい集団では、もし交配が任意であれば、交配の相手がお互いにごく近親である可能性は低い
これに反し、もし集団が小さければ、特に長期間小さな状態が続いたとすると、多数の個体はお互いに近縁になるだろう
したがって、交配が任意でも近親交配の可能性がある
このため、小集団では近親交配と非常に似た効果が生ずると予想される
遺伝子プールを用いた説明
今、親世代の集団がN個の二倍体個体からなるとし、この各々が均等に遺伝子を遺伝子プールに寄与すると仮定する
次の世代をつくるために配偶子の対を抽出する
この場合、同じ遺伝子を2回抜き出す確率は$ 1/(2N)
その遺伝子プールは2N個の遺伝子からなるから
抜き出した二つの遺伝子が別のものである確率は$ 1-\frac{1}{2N}
しかし、二つの別の遺伝子が実際には祖先にさかのぼったときに、共通の祖先遺伝子から由来した確率は、親世代における近交係数、または親縁係数に等しい
交配が任意なので、同一の親個体の二つの遺伝子が同祖である確率はその世代の異なった個体から一つずつ取り出した二つの遺伝子が同祖である確率と等しい
いま、第$ t世代における近交係数、すなわち同祖確率を$ F_tと表すと $ F_t=\frac{1}{2N}+\left(1-\frac{1}{2N}\right)F_{t-1} \qquad(20.5)
この式の意味は次のように書き直すといっそうよくわかる
$ 1-F_t=\left(1-\frac{1}{2N}\right)(1-F_{t-1})
ここで$ 1-Fがヘテロ接合の割合に比例することを思い出して欲しい。したがってヘテロ接合の頻度をHetで表すと
$ Het_t=\left(1-\frac{1}{2N}\right)Het_{t-1} \qquad(20.6)
言葉で言えば、ヘテロ接合の頻度は毎代1/(2N)の割合だけ減少する
小集団におけるヘテロ接合体の頻度の変化には、一つわかりにくい面がある
交配が任意に行われるので、集団内の遺伝子型の頻度はハーディ-ワインベルグの法則に従う
小集団では遺伝子頻度に偶然的な変化があるので、その結果として平均するとヘテロ接合体の頻度は毎代1/(2N)の率で減少することになる
上記の理論的な扱いでは、同一個体からの二つの配偶子の結合の可能性も含み、配偶子が全く偶然的に組み合わさることを仮定した
もし、自家受精が起こらないとしても大差はない
すなわち、自家受精がなければ1/(2N)がほぼ1/(2N+1)になるだけ
まず第1に繁殖にあずかる親個体だけが問題になる
雄と雌の数に違いがある場合もあるし、少数の個体が他よりもずっとたくさんの子を残すこともある
また、集団個体数が変動し、特に多くの種では冬と夏では変動する
一例として、ある島の集団が難破船から逃れた10名の人からはじまったと仮定しよう
問題を簡単にするために、男女の数が等しく集団個体数は以後5代にわたって1代ごとに倍加するものとする
第5代目におけるヘテロ接合体の頻度は
$ Het_5=Het_0(1-1/21)(1-1/41)(1-1/81)(1-1/161)(1-1/321)=0.91Het_0
ヘテロ接合体の頻度はほぼ9%だけ減じたことになる
集団内から任意に選んだ2個体は親縁係数が$ 0.09になる
これは大きな集団におけるいとこの間の親縁係数よりも少し高い
隔離集団にはもう一つの特徴がある
10人の人からできた集団では、頻度が1/20より低い遺伝子はあり得ない
大きな集団ではごくまれな突然変異遺伝子はこの集団に全く含まれないか、もし含まれるときは、かなり頻度が高く、ホモ接合になる確率が相当ある
まれな遺伝病を研究している遺伝医学研究者は、地理的、文化的または宗教上の理由から長らく隔離された小集団を調べようとすることを好む このような集団では、いやしくも存在する病気は十分比較研究できるほど高い頻度で存在するのが普通
各集団はそれ特有の突然変異遺伝子を含み、他の隔離集団とは異なっている
それは隔離集団の最初の祖先の一人にたまたま含まれていたものだから
少数の始祖から出発した集団の内に異なった遺伝子の組が存在すること
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この家系は、カリブ海の隔離された小さな島に19世紀の初期に住み着いた英国の少数の移住者の子孫に関するもの
多数の患者の存在は次の二つの原因によるものと説明できる
最初の移住者の数が少ないことによる血族結婚の率が高いこと
最初の移住者の一人がたまたままれな劣性遺伝子をもっていたという事実
突然変異と偶然的浮動の間の平衡
もし、ヘテロ接合の頻度が毎代1/2Nの率で減少するとしたら、集団は究極的にホモ接合となるはずだが、実際にはそうならない
突然変異率は非常に低いので数世代にわたる系図では無視しても差し支えないが、集団を長期にわたって観察する時にはそうできない
$ F_t=\frac{1}{2N}+\left(1-\frac{1}{2N}\right)F_{t-1}
を次のように変更できる
$ F_t=\left[\frac{1}{2N}+\left(1-\frac{1}{2N}\right)F_{t-1}\right](1-\mu)^2 \qquad (20.7)
$ \mu: 遺伝子あたり、世代あたりの突然変異率を表す
前と同様、前世代によってつくられた配偶子プールから同一の座の遺伝子対を取り出していく
余分の項は、前の代には同一だった遺伝子の対を取り出しても、もしそのうちの一つが突然変異を起こせば同一でなくなるという事実に基づくもの
二つの対立遺伝子のどちらも、突然変異を起こさなかったような配偶子だけを問題にするわけで、その確率は$ (1-\mu)^2
偶然的浮動によるヘテロ接合体の減少が新しい突然変異の生成と釣り合った時には、$ Fの値は変化しなくなる
これを$ F_t=F_{t-1}=\hat Fと表すことができる
ここで山形記号は平衡を表す
式20.6にこれを代入し、$ (1-\mu)^2を$ 1-2\muで近似すれば簡単な計算により次の式が得られる
$ \hat F=(1-2\mu)/(1+4N\mu-2\mu)
ここで$ \muは非常に小さな値なので、この式は次の式により十分満足に近似できる
$ \hat F=1/(1+4N\mu) \qquad(20.8)
分子遺伝学の知識から明らかなように、突然変異によって一つの遺伝子が変化する仕方は非常に多数ある
一つの新しい突然変異が起きたとき、それが集団中ですでに存在する対立遺伝子と同一なものであることはほとんどないということ
この場合、同祖であることと遺伝子のヌクレオチド配列が同じこととの間には違いがなくなる
したがって、$ 1-Fはヘテロ接合体の総体頻度ではなく、絶対頻度を表す
それでもう一つありがたい式が得られる。$ H=1-Fとおくと
$ \hat H=4N\mu/(1+4N\mu)\qquad(20.9)
$ 4N\muが$ 1よりもずっと小さいような集団では大部分の遺伝子座がホモ接合となる
一方、もし$ 4N\muが$ 1よりもずっと大きいと大部分の遺伝子座はヘテロ接合となる
選択の問題は次章